あとがき

 

『羽根のない天使、こぼれ落ちた宝石いし』のあとがきをご覧いただきありがとうございます。
 この物語のテーマは〈透明感〉です。ある時、ふと〈透明感のある物語を書きたい〉と思いました。どうしてこのワードが浮かびあがったのか分かりませんし、そもそも透明感のある物語って何だろう、って今でも思います(笑)。
 なぜだか当時はこのワードが頭から離れなくて、どうすれば透明感を表現できるだろうとずっと考えていました。WEB版のタイトルが「クリア・スカイ」だったのも、どうにかして表現したかったからなのかもしれません。
 いろいろと考えた結果、出した答えは〈美しい自然〉と〈爽やかな青春〉でした。そして、美しい自然に囲まれた場所で暮らす少年少女たちの青春物語を作ろうと決めたのです。
 最初に、豊かな自然のなかで、体を伸ばしながら思いっきり空気を吸うボーイッシュな少女の姿を思い浮かべました。彼女が主人公の陽咲です。明るくて真っ直ぐな彼女が、何かに思い悩み、一時的に後ろ向きになっているけれど、最終的には前を向いて歩き始める。
 そんな話が書きたくて、悩んでいる理由や成長するきっかけを考えていきました。
 結果的に、ほたるの〈透明よりも美しい純粋な心〉や、空色(透き通るような青色)の石の存在なども、透明感というテーマに沿うことができたのではと思っています。
 本作品は陽咲をはじめとして、主要人物のほとんどが悩みを抱えています。陽咲と駆は自分の殻に閉じこもり、ほたるは誰にも相談できずに自殺未遂してしまいました。それでも、彼らは前を向いて歩き始めます。柊や石との出会いがそのきっかけとなっていますが、運命的なことが無くても、人はいつか壁を乗り越えられると思います。
 乗り越える方法は人それぞれ。耐えるだけが正解じゃない、逃げたっていい。忘れてはいけないのは、自分を一番大切に思うことです。誰にだって悩みはあり、悩みに大きいも小さいもありません。ほたるのように一人で抱えこまないで、もっと広い視野を持って、周りを頼って、光を見失わずにいてほしいです。
 ……話がずれてしまいましたが、私はただ、本作品を読んでくださった方が、少しでも前向きに、元気になってくれたらいいなぁと願っているのです。
 本作は賞を頂いて書籍化の運びとなりましたが、受賞のご連絡を頂いた時は妊娠中で、他作品の編集作業をしている途中でもありました。担当編集の長谷川三希子さまには、スケジュールをご配慮いただき、常に優しい御言葉をかけていただきました。スケジュールの途中で出産という人生の一大イベントがありましたが(笑)、なんとかやり遂げられたのも長谷川さまのおかげです。本当にありがとうございました。
 そして、素晴らしいイラストを描いてくださった中村至宏さまにも大変感謝しております。空の色はまさに宝石のように美しく、いつまでも眺めていられます。
 最後に、校正の方、デザインの方など、本作品に携わって下さった皆様に心から感謝しております。ありがとうございました。

滝沢美空