あとがき

 

 幼い頃に住んでいた家は、何故か一人で留守番をしているときにばかり家鳴りが聞こえ始めるという、不思議な家でした。
 当時、まだ小学校の低学年だった私は、家鳴りが聞こえだすと毎回ビクビクとしながら誰もいない室内を見回し、奥の部屋から何かが出てくるんじゃないか、実はもう後ろにお化けがいるんじゃないかと勝手な妄想を膨らませ、一人怯えて動けなくなってしまうことを頻繁に繰り返しているような子供でした。
 親が帰ってくるのを待つ間、『仮面ライダーが敵を倒すみたいにお化けをやっつけてくれる強い人がいたら良いのに』と、そんなことを考えつつ、押入れの隙間や薄暗い座敷に置かれた仏壇をドキドキしながらジッと見ていたあの頃の、ある意味で子供らしい純粋な恐怖心の名残りが、本作に登場する矢式森純一を生みだしました。

 どんな怖い幽霊にも全く驚かず、余裕の笑みを浮かべて退治してしまうようなヒーロー。そんなヒーローが活躍する空想の物語を一つくらい残してみよう。

 そんな気持ちで書き、生みだされた世界は、私の想像を軽く飛び越え、「本」という形になって皆様の元へお届けできることとなりました。
 幼い自分が作り出したイメージを大人になった自分が形にしたこの物語が、読んで下さった――またはこれから読んで頂ける――皆様にほんの少しでも面白いと思える時間を提供できたのであれば、作者としてこれ以上の喜びはありません。


 最後に。今回、本作の書籍化を実現させて下さったメディアソフトの皆様。校正やデザイン、営業、印刷等、書籍化に関わって下さった全ての方々にこの場を借りて深くお礼申し上げます。
また、表紙を担当して下さったやすも様。最高のイラストをありがとうございました。表紙の菫の表情、すごく好きです。

 そして、本作及びこのあとがきまで目を通して下さった読者の皆様。
 数ある書籍の中から、純一たちの物語を見つけて頂き、本当にありがとうございました。またどこかで作品を通してお会いできれば幸いです。


 

雪鳴月彦