私の妄想癖が激しいということは前回のあとがきにも書いたのだけれど、今回の《百貨店トワイライト》を書くにあたって、ひとつのきっかけになったことがある。
ある日、働かずのんびりと高等遊民のような生活を送っていた友人が、
「今度百貨店でアルバイトするよ」
と言ってきたのだ。
ひさしぶりの労働では?と驚きつつも詳しく聞いてみれば、某老舗百貨店で一週間、知人の手作りアクセサリーの販売を手伝うのだという。大きな催事場ではなくエスカレーターの横に臨時のショップを開くらしい。
そういう催事を見たことがある人は多いだろう。なんだか楽しそうだなと思い、アルバイトが始まったと聞いて、さっそく冷やかしに行った。
だが前もってそれほど忙しくないと聞いていた時間に行ったにも関わらず、あいにく友人は接客中だった。
仕方なく、接客が終わるのを少し離れたソファーに座って待ち、ぼんやりとあたりを眺めていたのだが、これが意外にも面白かった。
なにを見たかをここで明らかにすることはできないが、どこにでも人間のドラマはあるし、人がいる限りどこだって物語になりうるのだと思うような出来事がいくつかあった。
気が付けば私は、iphoneのメモ帳にあれこれと思いついたことを書き連ねていた。
そんな出来事の末に生まれたのがこの《百貨店トワイライト》だ。
ちなみに一週間のアルバイトを終えた友人は、とても満足したようだった。
そして私の右手首には、小さな緑色の石がついた、糸のように細い金色のブレスレットが輝いている。
あさぎ千夜春