あとがき

 

 あとがきにお立ち寄りくださった皆様、初めまして、蒼井蘭子です。
 私にミステリーが書けるのか。
 2011年にエブリスタを始めてから、ずっと恋愛小説しか書いてこなかった私に出来るのか。
 そんな挑戦からこの作品を書き始めました。
 はじめは携帯を片手に、子供たちが絵本を読んでいる声を聞きながら、物語がどこへ進むのかもわからず書いていたのに。
 いつの間にか、パソコンを前に下書きをするようになり、ようやくプロットを書くようになって、慣れてきた頃だったから挑戦しようと思ったのかもしれません。
 見切り発車ではミステリーなんて書けるわけありませんから、はっきり言って完結出来るかどうかも分かりませんでした。
 もともと子供の頃からミステリーが好きで読んでいたとはいえ、読むと書くとでは全く違います。
 ただチャレンジするのは自由なので、思い切って書き進めました。
 エブリスタで仲良くしてもらっている方々から背中を押してもらったことも大きかったと思います。

 しかしまさか時代を超えた話になるとは思いもよりませんでした。
 東京オリンピック開催が決まり、そういえば東京オリンピックって前にもあったらしい、そんなことから書こうとするなんて。
 だいたい登場人物が決まると勝手に動き出してしまうので、先生が昔の資料を読んでいた時は驚きでした。
 頭を抱えつつ、どこかワクワクしている自分もいたりして、その時代を生きた気分で書いていました。

 書籍化にあたり、当時を知る人にちゃんと話が聞きたいと思い、私が小説を書いていることを知らない戦後間もなく生まれた父にさりげなく当時の話を聞き、思いがけず父の子供の頃の思い出話に触れることが出来ました。
 父の生い立ちは登場していません、念のため。
 でも高度経済成長期っていろいろあったのですね。
 あの頃は携帯どころかテレビが貴重品で、電化製品が揃っていない家も多かったこと、今では考えられない生活だったこともよくわかりました。
 そういう意味でも私にとっては心に残る作品になったように思います。

 父とはさすがに恋の話は出来ませんでしたが、今ほど自由が多くはなかっただろうと推測しました。
 メールもSNSもなかった時代ですから、出会う機会は今よりずっと少なかったでしょうし。
 片思いの思い出に頬を染めるおばあさんがいてもいいじゃないか! という思いから小梅おばあさんの恋は成就させませんでした。
 それでも恋愛ものを書き続けてきた私としては、最終的には気持ちが通じて欲しいと願うわけです。ハッピーエンドが大好きなので。
 ただし、珠美と先生が上手くいくのかは書いていた私にもよくわかりません。
 まだ恋と呼ぶには早い気もしています。
 珠美はまだまだお子ちゃまでしたし、先生に振り回されてばかりでしたから。
 たぶん一番振り回されていたのは私だと思いますけど。

 話の本線から脱線しそうになるふたりを引き戻すのにも苦労しました。
 それでも書いていてとても楽しかったです。
 今となっては、頭に浮かんだ映像を忘れないうちに、必死で文字にしていた記憶しかありませんが、読んだ皆様に少しでも楽しかったと思って頂けたら幸いです。

 この書籍を手に取ってくださった皆様、本当にありがとうございます。
 そしてエブリスタで常々応援してくださっている皆様に心より感謝申し上げます。
 日々の応援がとても励みになっています。

 まさか自身初のミステリー作品を書籍化していただけるとは思っていなかったので、SKYHIGH文庫様よりお話をいただいたときは、嬉しいのと同時に不安も大きかったように思います。
 そんな私の背中を押してくださった三交社の須藤様、いつもアドバイスをくださったメディアソフトの長谷川様、喫茶ルパンと珠美たちをイメージ通りのイラストに仕上げてくださったはねこと様、この場を借りてお礼申し上げます。

蒼井蘭子