あとがき

 
 

 まず、こちらのページまで見てくださり、どうもありがとうございます。書籍化検討のメールが届いてから早数ヶ月。当初は「絶対何かの間違いだ」だと思い、ずっとビビりながら作業をしていたのですが、ここまでたどり着くことができてホッとしております。
 さて、今回「花屋の倅と寺息子」がこちらの「SKYHIGH文庫」で創刊ラインナップとして出版させていただくことになりました。それに至るまでを話すには、まず、私がどうして小説を書くようになったのか、その経緯をお話させてください。

  私が初めて小説を書いたのは小学校高学年の頃でした。どうして書こうと思ったのかまったく覚えていないのですが、その時は何となしに、ただノートに思い浮かんだ物語を書いていました。あまりに乱雑で、しかも台本書きだったので、とても「小説」なんて呼べるようなものではありませんでしたが、できあがった作品をこっそりと母親だけに見せました。本来だったら黒歴史として封印するべきなのですが、当時の自分は母親が大好きでとても信頼していたので、「お母さんに見てもらいたい」と思ったのでしょう。いきなり娘から「小説書いたから読んで」と言われたのだから母親はさぞ驚いたと思います。それでも、それを読んでくれた母親は、私の作品をとても褒めてくれました。
  そんな母親が、中学一年生の秋に車に轢かれて亡くなりました。あまりの急な出来事で、しかも母親中心に生活してきた私は悲しくて寂しくて仕方がありませんでした。しかし、意地っ張りな私は家族や周りの人に心配かけたくなくて、ずっとその感情を押し殺し、母親がいなくても平気なふりをして生きてきました。幸い、父親は仕事で多忙だったし、年の離れた姉も自立して家を出ていたため一人でいる時間が多かったので、誤魔化すことができました。
 ネット小説と出会ったのはちょうどその頃でした。当時インターネットにはまっていた私は、とあるサイトで一年半ほど小説を書くことに没頭しておりました。一人の時間が多かったということもありますが、自分の頭の中で描いた世界をひたすら書きこむことで、その時だけは母親がいない現実を紛らわすことができたのです。残念ながらそのサイトは閉鎖されてしまったのですが、それでも書くことをやめられず、拠点をモバゲー(後のエブリスタ)に移し、誰にも言わずひっそりと創作していました。
 それから数年後、大学に進学した私は友人にも恵まれ、充実したキャンパスライフを過ごしていました。社会福祉士の資格を取るため勉学に勤しんでいたこともあり、その時はあれだけはまっていた創作活動も休んでいました。
 転機は大学三年生の終わり。卒業論文を制作している時でした。「死別悲嘆からの回復」をテーマに書いていたので、当時はたくさんの悲嘆学の論文や本を読んでいました。読んでいるうちに「死別の悲しみに向き合う」という人物像や物語がどんどん浮かびあがり、久々に「書きたい」と思うようになりました。ちょうどエブリスタで幽霊が視える高校生を主人公にした書きかけの作品があったので、そのスピンオフとして新たに書き始めることにしました。それが「花屋の倅と寺息子」です。
 元々あった作品が「悪霊退治」という和製ファンタジーのような話だったので、差別化として幽霊が視えるだけの、よりオカルト色の強いものにしました。始めは卒業論文の息抜きだったのですが、書くことが楽しすぎてそのうち立場が逆転し「創作の息抜きに卒業論文を書く」という訳のわからないことになってしまい、しかも途中から卒業論文だけでなく就職活動や社会福祉士の資格試験なども入ってきたことで忙しい日々を過ごしていました。裏ではこんなことをやっていたのに無事に大学を卒業でき、社会福祉士の資格も取得できたのは奇跡だったと思います。

 卒業論文と並行して書く中で私は自分の死生観を、そしてずっと自分の中で封印していた「母親の死」についてもう一度見つめ直すことにしました。そんな自分の気持ちの整理のために書いた作品ですが、エブリスタではたくさんの人に読んでいただき、しかも「SKYHIGH文庫」という新しいレーベルで出版させていただくことになりました。自分のために書いた作品が一つの商品となることで自分だけのものでなくなる……そういったプレッシャーを感じながら執筆に臨んでいましたが、作業を通し、エブリスタの運営の方、出版社の関係者様、そして同じく「SKYHIGH文庫」で出版する同士など、素敵な出会いに恵まれました。そういった新たな出会いは自分の作品に対しての課題も発見でき、自分自身の成長にも繋がることができたので、とても良い刺激になりました。こんな貴重な経験をさせていただけるのも読み手の方々と関係者の皆様のおかげです。そして今回の出版にあたり、素人である私に熱心かつ丁寧なご指導をいただいた編集者の長谷川様を始め、イラストを担当してくださったvient様、出版の関係者の皆様、そしてここまで見守ってくれた家族、友人、私の挑戦を快く受けさせてくれた勤め先の上司、先輩方にも心より感謝致します。本当にありがとうございました。
 生きている人がいて、亡くなった人がいて、その中で遺された人がどう生きるか。私の中で永遠のテーマになりつつあります。いわばこの物語は「卒業論文の延長」で、今回刊行させていただくのはそのほんの一部です。これからも悟と統吾は多くの人に出会い、そして別れを経験します。死んだ人の魂が視える彼らが人の死を目の当たりにしてどう感じ、どう立ち向かうか。物語の続きはエブリスタでも掲載しておりますので、今後とも彼らの成長を見守っていただけると幸いです。創作活動は変わらず続けると思いますので、これからもどうぞよろしくお願い致します。

 ここに至るまで何度も迷い、何度もプレッシャーに負けそうになりましたが、何か一つでも母親に胸を張れるようなモノを届けたくてここまで来ました。この広い空のどこかにいる母親にも届いていますように願っております。

葛来奈都