あとがき

 
 

 みなさま、こんにちは。遠藤遼です。SKYHIGH文庫では久しぶりの発刊になりましたが、この度は『バリスタ晴明 心霊相談お受けします』をお読みいただき、ありがとうございました。普段の私の作品と比べると少しオトナというか、怖めに仕上がっているかもしれません。取り上げたテーマ自体が重めで、それに対応する霊もそこそこハードなのが揃っているため、意外と強い作品になったように思います。
 どこのどれを話してもネタバレになってしまいそうではあり、すでに読んだ方を対象としたこのあとがきなら別にいいのかもしれないと思いつつも、悩ましいなと思い、筆が遅々として進まないところがあるのです。自分の心と行いにふさわしい霊存在――いい霊のときもあるけど、たいていは悪い霊――を引き寄せてしまい、その存在が人生に影響を与えてくる、というのが結局どの物語でも出てきています。
 自分の考えと思っていても、結構、私たちの日常はいろいろな影響を受けていますよね。両親の考え方の影響から始まり、教育、友人、読んできた本、マスコミ、職業特有の考え方など、まっさらな自分の心というものを現代ほど見つけ出しにくい時代もなかったと思うんですよね。「自分の人生、自分の心、他人に明け渡さないで自分が主役であり続けられますか」というのが人生の幸不幸を分けるのではないだろうか――。この小説を書きながら、そんなことを私は考えていました。 
 
 さて、本作の特徴の一つは、ただの現代的陰陽師にとどまらず、バリスタをやっているというところだと思います。今回は日本バリスタ協会インストラクターであるBarista Saltoの田口希憲様に取材し、さまざまな助言などをいただきました。淹れていただいたエスプレッソもカフェ・ラテもカプチーノも、信じられないほどおいしかったです。そのときの、いわゆるチェーン店などとはずいぶん違う味わいへの驚きは、主として葛葉に代弁してもらっています。その後、個人的にチェーン店も個人経営の店も行ってみたのですが、このときのおいしさがいまのところ、私の中でのナンバーワンエスプレッソです。何が違うのかと言われても私も専門家ではないので表現しにくいところがあるのですが、やはりスキルと経験からくる自信、なのだろうなと思います。ありきたりな言葉ですが、その境地に行き着くのは並大抵のことではありません。一切迷いがないし、てらいもないし、おしつけもない。ただ、エスプレッソを淹れている。豆の状態、温度湿度などを勘案するのは当然のことですが、ある意味で茶道にも通じる部分があったりしたら、それは日本人としてちょっとうれしいかもしれません。むしろ逆に、日本人だからこそ淹れられるエスプレッソの味わいみたいなものがあったりするのかもしれませんね。
 田口様には素人の質問にも丁寧にお答えいただき、おかげさまで、バリスタやエスプレッソなどに関連する勉強ができました。この場を借りて、改めてお礼申し上げます。
 最後になりましたが、この物語を書籍化していただきましたSKYHIGH文庫のみなさま方はじめすべての方々に心より感謝申し上げます。伏見おもち先生には、デビュー作である「週末陰陽師」シリーズに続き、とてもすばらしいイラストをお描きいただき、本当にありがとうございました。
 伏見おもち先生にはさらにお世話になります。帯の裏をご覧になった方はご存知だと思いますが、この『バリスタ晴明 心霊相談お受けします』は、無料マンガサイト「ナナイロコミックス」でコミカライズされることになりました。本当にありがとうございます。コミカライズをご担当いただくのが、伏見おもち先生です。装画や人物紹介などを見ていただければお分かりの通り、とても素敵なタッチで描いてくださっているので、私も期待しています。目には見えない世界の者たちを扱った部分も多い小説であり、明確な視覚的資料は乏しいと思うので、結構、いや、とても大変なお仕事になると思うのですが、楽しみであります。どうぞ、よろしくお願いします。 
 
 どうか読者のみなさまが、健康で幸福でありますように。
 それではまた、どこかでお会いしましょう。

二〇二〇年十二月 遠藤遼