あとがき

 
 

 私の家の近所に年季の入った塀に囲まれたお屋敷があり、門からはいろんな木々の植わった広い庭や離れも見えて、通りがかるたびにやたらとロマンをかき立てられていました。
 門の周囲では味のある模様と太さの猫が数匹ひなたぼっこをしていて、道行く人たちが好き勝手に名前をつけて話しかけたりしているのも、本当になんていい風情だろうといつも嬉しかったんですが、そのうちに塀の一部と離れが取り壊され代わりにコンビニエンスストアが建ち、猫たちは地域の愛護団体が連れていってしまい(飼い猫だと気づいたのか、しばらくして戻ってきたとは聞いたんですが、それ以来姿を見ていない…)、馴染んだあの景色はもう二度と見ることができないんだなあ、と思ったら、急に寂しくなってしまいました。
 住んでいる人の事情もあるだろうし、そもそもまったく知らない家のことなのに勝手に思い入れを深めてどうするんだと思いますが、何となく記憶に留めておきたいなあと思って、このお話の舞台はそういう感じの古い屋敷です。 
 
 物語が主にシェアハウス内で起こるのでなかなか外の景色を書くタイミングもありませんでしたが、シェアハウスがある土地も、私の大好きな街をモデルにしています。
 本当に東京都内なんだろうかと思うほど緑豊かで、やたらあちこちに大きな公園があって、大きな神社や遺跡があって、しょっちゅうお祭りをやっている街です。
 櫟井もきっと睦月をお祭りに連れていってあげたり、シェアハウスのみんなで花見をしたり、昔できなかったことを取り戻すように、故郷での生活を満喫するようになるんだろうなと想像しています。
 そうなるといいなあ。 
 
 どのお話も当然ながら魂を籠めて書いていますが、登場人物が多い分なかなか思い入れの深い話になりました。
 というこの本に、大好きな雨隠ギドさんにイラストを描いていただいて、宝物がひとつ増えました。ありがとうございます。
 ギドさんのイラストにはいつも物語があって、一枚だけで文庫小説一冊分と同じくらいの奥行きを感じます。
 作品に彩りを添えていただけて、何と幸福なことであろうかと思います。 
 
 ギドさんのイラストに惹かれて手に取ってくださったり、シェアハウスや妖怪というタイトルやあらすじが気になって手に取ってくださったり、スカイハイ文庫さんの新刊だからと手に取ってくださったり、私が書いたものだからと手に取ってくださったり、理由はさまざまだと思いますが、「ワケありシェアハウス妖怪つき あなたのお悩み、解決します!」をお読みくださり、本当にありがとうございます。
 こじらせサラリーマンと、クセのある住人ばかりなので、全員を好きになってほしいなどと贅沢は言いませんが、「友達にはなれないけど様子は知りたい」くらの気持ちでも、興味を持っていただけていたら光栄です。
 もちろん好きになっていただけたらこれほど嬉しいことはありません。 
 
 この本を読んでくださった方と、みなさんの手に届くまでに関わってくださったすべての方に感謝致します。
 またどこかでお会いできますように!

渡海奈穂