あとがき

 
 

 こちらのページまでご覧いただき、ありがとうございます。 
 12月に「花屋の倅と寺息子」の第1シーズンを終えたばかりなのに、こんなにも早く葛来が戻ってくるとはみなさんも思わなかったのではないでしょうか。 
ご安心ください。私もです。 
 しかもまさかスピンオフにお声がかかるとは想像しておらず、本当にびっくりしました。 
 
 
 さて、今作「絹子川奇譚」はもう1人の寺息子・柄沢瞑が主人公となります。 
 よく「スピンオフなんてあったんだ」と言われるのですが、むしろこちらのほうが先に書いておりまして、元々は「光と影とそして華」という題名でした。「絹子川奇譚」は再投稿の題名です。 
 
 原作を書き始めたのは今からおよそ11年前。私もまだ高校生の時でした。 途中で大学受験や引っ越しなど生活環境の変化により書けなくなった時期があったので完結するのに6〜7年かかりましたが、プロットは全て学生時代に作ったものになります。 
 そんな作品が10年以上の時を経て書籍化することになったものですから、驚きの他に「大丈夫なのだろうか」と不安もありました。 しかし、兄の話である「花屋の倅と寺息子」に区切りをつけられた今だからこそ、彼らの物語を作ることができたのでしょう。 
 
 あらすじの通り今作では瞑が絹子川市に引っ越してすぐ……つまり「花屋の倅と寺息子」より前から物語が始まります。 
 勿論前作を読んでなくても問題ないのですが、前作でさらりとしか触れてなかった事柄がこちらでしっかりと書かれていたり、悟視点で語られていたものが瞑視点でも書かれていたりと拙著を読んだことがある方がよりいっそう楽しめるような作品になっております。 
 スピンオフと言いつつも、これらは2つで1つの物語――とにかく「(つい)」になるように意識して書きました。 その辺りに注目してもらえたら嬉しいです。 
 
 当然、悟と統吾も出てきます。悟に至っては全章登場します。流石前作の主人公ですね。 
 しかし、今作は2人とも瞑たちのサポーター。特に悟はツンツンした頃に逆戻りのうえに完全に「おうちモード」でリラックスしております。いつもとは違った彼を改めて書けて私も楽しかったです。 
 
 悟や統吾と同じ視える瞑ですが、一番の違いはやはり「祓える」こと。 
 前作では無力だからこその恐怖がありましたが、瞑たちの場合は解決できる力がある分、自分たちでどうにかしなくてはいけないから悟たちより大変なように思います。 
 今作はそんな大変なことになる彼らの「はじまり」の物語です。 
 ここから派生して生まれたのが「花屋の倅と寺息子」ですから、今作が物語の原点とも言えるでしょう。そんな話を形にすることができてとても感慨深く思います。
 
「絹子川奇譚」は「花屋の倅と寺息子」と違い「幽霊退治」を重点的に置きながらも、当時まだ子供だった自分がもがき、苦しみながら、一生懸命「人の死」と向き合った作品でもあります。 生きている人に救いの手を差し伸べるのが「花屋の倅と寺息子」ならば、「絹子川奇譚」は亡き者を救おうとする話です。 生きているか亡くなっているかの違いで、目の前の悲しみにどう立ち向かうかということはこの頃から書きたかったのかもしれません。 
 悟と統吾もこれまで頑張ってきましたが、彼らの物語の裏では瞑たちも頑張っておりました。 
 今回収録したのはそんな物語のほんの一部です。続きはエブリスタに掲載されておりますので、よろしければそちらもどうぞご覧ください。 
 
 
 最後に長谷川三希子様をはじめとした編集部のみなさま、デザイン、組版、校正をしてくださった出版関係者のみなさま、瞑たちを素敵に描いてくださった藤村ゆかこ様……前作に引き続き、本当にお世話になりました。この怒涛の作業を乗り越えられたのもみなさまのおかげです。 
 また、いつも拙著を取り扱ってくれている書店様、読んでくださる読者様、応援してくれる作家仲間や家族、友人、故郷の人たちにも感謝致します。 みなさんのおかげで私は「葛来奈都」でいられるのです。 
 それと婚約前からずっと出版作業している私に付き合ってくれる主人。 
 相変わらず私の作品については1ミリもわかっていないけれども、あなたが私のことを理解してくれているからここまで頑張れました。 いつも私の世界をそっと見守ってくれてありがとうございます。 面と向かっては照れてしまって言えないので、この場を借りてお礼申し上げます。 
 
 高校生の頃、書くのが楽しくて漠然と「作家になりたい」と思っておりました。 そんな私の「夢」のきっかけとなった作品を世に出せて本当に幸せです。 
この「夢」を「夢」で終わらせないために、これからも私はいろんな世界を紡いでいこうと思います。 
 どこまでいけるかわかりませんが、これからも私の世界に付き合っていただけると幸いです。 
 それではまた、別の世界で。

葛来奈都